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肉の音についてのレポート 〜肉によって焼ける音は変わるのか〜

2015年4月18日
肉ラボ研究員:喜多 雄亮

1.問題提起

 焼肉。それは、香り•食感•タレが織り成す総合芸術である。無骨な金網の上で灼熱の業火に焼かれることで、激しく肉汁が泡立ち、煙を上げながら褐色に染まってゆく肉。その光景がこれよりいざ焼肉を食さんとする者の心を踊らせる。さらに、豊潤なたんぱく質とカルシウムが焼けることによって、発せられた香ばしい匂いには、誰もが食欲を高揚させられるに違いない。肉が程よく焼き上がったら、箸で掴んで自分の取り皿へ。お好みのタレに浸し、しっかりと味を浸透させてからいよいよ自分の口へと運ぶ。
 次の瞬間、舌鼓とともに口内一杯に奏でられるのは、とろける食感と深いタレの旨味によるハーモニー。そして、肉を一噛みするごとに溢れ出す肉汁と、細やかな繊維がプツリ、プツリと切れる感覚。これらが焼肉の醍醐味と言って良いだろう。
 いや、少し待ってほしい。焼肉の醍醐味を並べるにあたって、もう一つ忘れてはいけない物があるのだ。

2.仮説

 音である。
 焼網の上に健康的な桃色の肉を乗せた瞬間から湧き起こる「ジュー」という音だ。日常にあまりにも当たり前に存在しすぎていて、うっかり忘れ去られがちかもしれない音。しかし、この音こそが焼肉の真の魅力なのではないかという仮説を立て、我々は音に着目した研究を開始した。
 本項で述べる大本の仮説は、先述した通り、肉の焼ける音が焼肉の魅力の一要素として十分確立しうるということと、人が焼肉を良いと思う理由は、音による所が大きいのではないかということ。この仮説が正しい場合、人は音を聞いているだけで、焼肉を食べている気分になれる可能性があると予想したうえで、次の実験を行うものとする。


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3.実験

【用意する物】高性能デジタルオーディオレコーダー
【取材店】焼肉ホルモンMeetBowl(京都祇園)
【研究班人員数】3名(協力者1名)
【実験時間】約4時間
【最終目標】肉を焼く音を聴くだけで、焼肉を食べたような幸福感を得られるのか、音の影響力を解明。

●実際に焼肉屋で、肉を焼く音を高性能レコーダーで収録。正確に録音できるのかもテスト。
●平行して、肉の種類によって焼ける音が変わるのかも検証。
●録音した音を聴いただけで焼肉の醍醐味が味わえるのかを調査。
 収録した音声をCD販売し、大衆のレスポンスによって判断する予定。

 


取材店「焼肉ホルモンMeetBowl」
写っている人物は取材メンバー(中央を除く)

4.検証現場レポート

 まだ開店間もない午後5時、焼肉の音を求めて我々は店内へと足を踏み入れた。
 入店してすぐの場所にあったのはカウンター席。洒落た暖色系の灯りに空間全体が照らし出され、落ち着いていて良い雰囲気の店内だ。愛想の良い店員に予約していた個室席まで案内され、取材メンバーはひとまずドリンクを注文。すぐ運ばれてきた飲み物で喉を潤しながら、ついに最初のターゲット(肉)を注文した。これからこの個室で始まる光景を知る由もない店員は、明るい口調でオーダーを了承。しばらくして肉が運ばれてきた。
 いよいよ検証開始である…!

収録風景。もちろん録音している間は、誰一人言葉を発してはいけない。真剣なデータ採取が続く。


 一気に焼いて食べる事よりも、単一の肉が焼ける音だけを録る事に固執したので、目の前に新鮮な肉が並べられていても、眺めるしか方法はない。我慢のしどころだ。

音のみならず、肉の写真も参考データとして撮影。単色の画用紙を椅子の上に敷き、肉を乗せて撮影した。


 もはや前代未聞。食べる事は完全に二の次で、録音や撮影などがメインに。しかし、メンバー全員が真剣で真面目なのは間違いないと断言できよう。かなりシュールな雰囲気で取材が進行してゆく。

焼網の直上のほうが、より明瞭に収録できることが判明。こうなると肘をついて作業できないゆえに、腕を手で支える録音担当者。


 途中、レコーダーの温度が炎によってかなり上昇したり、塩カルビの上に乗っていたネギを丸ごと金網にぶちまけたりと、様々な困難が待ち構えていたが、最大の修羅場は 肉を運んできた店員さんに笑顔で「何を録っていらしたんですか?」と訊かれた時だろう。一瞬メンバーの間に戦慄が走ったが、事情を説明すると「面白いですね」と微笑んでくれた。その人の親切さと笑顔は我々にとって、ある意味一生の思い出になりそうだ。

 

5.結果と考察

 実験の結果、収録機材が高性能だったことも幸いし、一通りの音声が高品質に録音できた。この点に関しては成功だったと言えよう。一時は録音している現場を店内スタッフに目撃され、怪しまれたが、最終的には問題なく取材が終わり、まずまずの結果だった。

 収録に成功した肉の音は下記の通り。

 アカセン アギ ウルテ カッパ コリコリタン センマイ テールスープのテール
 バームクーヘン豚のロース ハツ ミノ レバー 九条ねぎの塩カルビ 上タン塩 中落ちカルビ 


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 ただ、惜しむべき点や反省すべき点、今後の課題もある。
 一つは音を収録する過程で、意図せずレコーダーが拾ってしまった肉が焼ける音以外の雑音だ。我々も当初より周囲の音には警戒しており、それゆえに個室テーブルでの録音を試みたが、それでもやはり大衆料理店。他の一般客の人々の話し声や食器の音までは防ぎきれず、しかもレコーダーが高性能すぎて、周りの雑音までもが高音質でしっかりと収まっていた。
 さらに、取材を敢行する前の段階で我々が大きく見落としていたのが、店内で常に流れるBGMの存在だった。当然と言われれば当然である。飲食店で音楽が流れていない店など、今時皆無だと言い切れるかもしれないし、当たり前のことを見落としてしまっただけに、反省すべきところだろう。
 そして想定外だったのが、肉の種類によって音が変わるのかという検証の結果だ。何が想定外だったか一言でいうと、あまり音が変わらない。脂の乗り具合や肉の大きさ、厚みによってもう少し変化が生じると思われたが、大してそうでもなく、少々物足りなさを感じる結果となった。

 研究とは関係ないが、目の前に焼いていない大量の肉が余っているのに、収録が終わるまで食べられない辛さを味わう結果に。
 また、なかなか噛みごたえのある肉ばかりで、飲み込むのに苦戦するメンバーも多かった。
 なお、味は上質だった。


※収録後、注文した肉は全て美味しく頂きました。

 以上、課題も多く残る実験結果となったが、これらの諸問題は実験方式の改良や事前準備と調査、音声編集によって改善できる余地は十分あるものと思われ、むしろ前向きに捉えたほうがよいと考える。収録現場の環境ならば店ではなく自宅で焼く方法もあるし、肉の種類で音のバリエーションが増えないなら焼き方を変えてみる方法もある。
 焼肉サウンドの可能性についての探求は今後も続くだろう。

 

6.感想

腹へった。



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※この研究所はフィクションです。実在の団体・研究機関などとは一切関係ありません。